前回は「がんの痛みにはどのようなものがあるか」をお伝えしました。
それをふまえて、まず、実際に西洋医学では何を目標に、かつどのような痛みのコントロールが行われているのかをお伝えしていきます。
痛みのコントロール目標
・ 痛みに妨げられないで夜の睡眠をしっかり取れるようにする
・ 安静にしているとき、痛みを感じないようにする
・ 体を動かすとき、痛みを感じないようにする
西洋医学で痛みをコントロールする手段
・ モルヒネ系鎮痛薬や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)など
・ 神経ブロック
現在、痛みが強くなったとき、「痛み」のコントロールのための主となる治療は「モルヒネなどの鎮痛薬の使用」です。
以前はモルヒネに対する誤った認識があり、痛みを極限まで我慢した末に最後の手段として投与していました。しかし、体が衰弱し切っているタイミングなどでモルヒネを投与すると、稀に量が過剰になり死亡することもあったようです。
現在は鎮痛薬の知識が増え、早い段階からモルヒネを投与するなど、より患者さんの負担をおさえ、かつ安全に痛みのコントロールができるようになってきています。
ただ、痛みのコントロールがしやすくなってきてはいても、中には薬に対する体の反応が強く、鎮痛薬を使用できない患者さんや、上手く薬の効果が得られず痛みが持続している患者さんもときどきいらっしゃいます。
そのような患者さんのがんの痛みに対しても、鍼灸が有効な手段になりえます。
私は縁あって、そういった患者さんの治療をさせて頂く機会が何度もあり、いろいろな鍼灸師の方とお話ししてまいりましたが、治療をする鍼灸師も治療を受ける患者さんも、鍼灸の治療効果を実感されている方が多いと感じました。
痛みの発生には前回お伝えしたようにいろいろな要因がありますが、私の経験上、筋肉の緊張、血流、自律神経なども大きく影響していると思っています。
2年
これは、根本にある痛みの原因により、周辺の筋肉に緊張が生じ、血流が悪くなる。
その結果、自律神経を乱し筋肉の緊張をより強め、ますます血流を悪化させるという負の循環によって痛みが増幅されるというメカニズムです。
私は筋肉、血流、自律神経に対しては、鍼灸によるアプローチが一役買えるのではないかと考えています。
実際2年ほど前、ずっと痛みを感じていた患者さん(鎮痛薬、ブロック注射などで痛みの治療はしていたが、思うような効果が出ていなかったため痛みの軽減を目的に来院した)を治療させて頂いたとき、治療の途中からでも痛みがなくなったという経験がありました。
治療が終わり起き上がると、少しは痛みを感じるものの、来院時と比べて大幅に症状が軽減されていると仰っていました。
これは、痛みが続くことで継続的に脳へ伝わっていた痛みの感覚を、治療によって短い間でも抑えていられたことで、脳への刺激が一旦遮断され、脳が休憩でき、痛みが減少したのではないかと考えています。
その後も何度かこの患者さんを治療させて頂き、継続的に痛みの軽減を図ることができました。
私はこの患者さんのおかげで、鍼灸ががんの患者さんにとって有益な部分があることをより強く実感することができました。
もちろん、これはすべての方に当てはまる訳ではないと思います。
ですが、痛みが抜けきらず辛い思いをされている患者さんやそのご家族の方、少しでも多くの方にとって、鍼灸が痛みに対して有益な手段となるようにしたいと思いますし、そうなりえることをより広めていきたいと思います。
参考文献:国立がん研究センターがん情報サービス
:緩和ケア鍼灸マニュアル
:鍼灸大阪vol.109「がんへのアプローチ」